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MBAとは教習所なり

最近は日本の大学でもMBAプログラムを提供するところが増えてきたので、ご存じかと思うが、MBAとは、Master of Business Administrationの頭文字を取ったもので、日本語に訳すと「経営大学院」といったところか。

確かに制度上は「大学院の修士課程」であり、卒業すれば、一応、修士号という学位がもらえることになる訳だが、私が知る限り、MBAを取得するのに修士論文の提出を求められることは無い。つまり、MBAは2年間の「学究成果」に対して与えられる学位、というものではない

学校によってバラツキはあるだろうが、MBAのカリキュラムは、まず1年目で経済学・統計学・会計学・マーケティング・組織行動論といった科目を超特急で履修する。最近では、デザインや商品開発などを科目に加えるプログラムもあるようだが、いずれにせよ、こうした科目は、経済学者やデザイナーを養成するためにある訳じゃない。

内容的には、それぞれ学部レベルで履修する程度のものだ。だが、ともかく、MBAに入った限りは、出身が文学部だろうが理工学部だろうが、大学で経済学や統計学あるいはマーケティングを専攻した連中と同等レベルの知識を1年で習得することが求められる。

MBAを卒業した後は、企業の経営者もしくは幹部として、例えば、会計学を専攻して経理部門に配属になった部下が作成した財務諸表や、統計学を専攻した部下が出してくる市場調査のデータを見て、それを理解した上で的を得た質問をし、そして正しい経営判断を行うことができるようにするためだ。

そして2年目は、1年目で習得した知識やMBA入学までの職務経験などを総動員しながら、企業のケーススタディを通じて、経営者としての模擬訓練を行う。教材は、実際の企業に取材して作られた様々な「実話」だ。

医療品メーカーの売上減少や、重機メーカーの多国籍展開に伴う組織や人事の問題、なかにはイタリアの現地法人が役人から公然と賄賂を求められたが、国際部門の責任者であるあなたならどうする?といったものまで、内容は多岐に渡る。その他、私が卒業したジョージタウン大学では、「ビジネスコミュニケーション」というクラスもあり、そこではもっぱら、プレゼンの作法やビジネス文書の書き方などを叩き込まれる。

だからMBAは、学問をするところではなく、卒業後、企業の経営について、最低限の舵取りができるような経営幹部候補を養成する「教習所」なのだ。

ちなみに、ケーススタディに正解などはない。成績は試験や、クラスでのディスカッションにどれくらい貢献したかといった要素で決まるが、奨学金をもらっているヤツでもない限り、成績もそれほど重要ではない。これも、自動車教習所と同じだ。卒業できなきゃ困るが、教習所での成績なんて免許を取ってしまえば、全く関係ない。

誤解の無いように言っておくが、教習所であることが問題だとか、MBAに意味がないなどと言っている訳ではない。むしろ、反対に、日本のビジネスパーソンも、こうした「教習所」にもっと簡単に通えるような環境が必要ではないかと思っている。

アメリカには、ハーバードやスタンフォードだけじゃなく、MBAプログラムを提供している大学は、地方のコミュニティカレッジのようなところも含めて、山のようにある。2年間、会社を辞めて通うものだけでなく、夕方や週末に通えるパートタイムMBAといったプログラムも充実しているので、数年かけて仕事をしながらMBAを取得する人も多い。

このため、米国の企業では、別にバリバリのエリートでもなく、ちょっとした会社のマネジャークラスの人間でも、コトラーくらいは読んで知っているし、資金調達におけるモジリアニミラーの命題、統計学における最小自乗法や、事業評価におけるNPVやIRRなどの意味についても、知識としてひと通り押さえている。また、説得力のあるプレゼンをするためのスライドの作り方や立ち振る舞いなども心得ている。

ここから先は私見になるが、日本企業のホワイトカラーの生産性が低いと言われる原因の一つには、ホワイトカラーとしての基礎的な素養を習得する機会が乏しいことにあるような気がしてならない。多くの人は、大学を卒業して会社に入ると、その後、体系的な教育を受ける機会が余りないため、知識の習得は、自分が担当している領域におけるOJTが中心とならざるを得ない。

もちろん、書店にいけば、「ビジネスマンのための」などと冠した書籍は山のように売られているので、そうした書物で独習することもできな訳じゃない。だが、MBAのプログラムに乗っかることで、習得できる領域の幅は広がるだろうし、ケーススタディなどを経験することで、知識の定着度も増すだろう。

いずれにせよ、MBAに行こうとすると、仕事や私財を投げ打って、しかも、まずは英語と挌闘した上でアメリカに向かうしかない、という状況はどうにかならないかと思う。

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